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2. 森の里の花々

不定期に森里付近の季節柄の花々を紹介していきます。

「ヒトリシズカ」  2021年4月   作:道端古石・花の影武者

 この花は森の里森林公園の余り人が踏み込まない藪の木陰に白くか細く頼りなさげに咲いています。花言葉は、「隠れた美」「静謐(せいひつ)」「愛にこたえて」などです。この花を見つけると清楚で優しいイメージが自然に沸き起こります。ヒトリシズカは3月の終わりから4月にかけてどちらかというと日の当たらない木々の陰に隠れひっそりと咲いているのです。皆さんご覧になったことはありますか。

 もちろん、ヒトリシズカと言う名は源義経に愛され、その子を身ごもったにも関わらず正妻にはなれなかった女性、静御前の姿を想像して付けられたと考えられています。なぜ静御前の姿なのかは、「吾妻鏡」によると、源平合戦後、兄の源頼朝と対立し、追捕を逃れる義経と共に九州へそして、吉野へと逃亡する哀れで美しい女性の姿が重なります。追手から逃れて奈良の吉野山に差し掛かった静は、その時、義経の子を身ごもっていたのでした。静とお腹の中の子の身を案じた義経は京へ戻るように言い、涙ながらに分かれ京に向かいました。

 しかし、静は、頼朝の追手につかまり、鎌倉へと送られてしまいます。鎌倉では身重で体調が悪いにもかかわらず義経の行く先の激しい尋問を受けることなり、さらに鶴岡八幡宮の回廊で白拍子の舞を踊るように命令されます。そして、静は義経への思いをこめて、頼朝と政子の前で白拍子を舞いました。

「吉野山 嶺の白雪 踏み分けて 入りにし人の 跡ぞ悲しき」

(吉野山の峰に積ったあの白い雪を踏み分けて、私の身を案じつつ山の中へ姿を消したあなたのことが恋しいのです)

「しずやしず しずのおだまき 繰り返し 昔を今に なす由もがな」

(貴方に静、静…と呼ばれて幸せだった昔へ、しず布を織る糸を苧環(おだまき)で繰るように、戻れたらいいのに){注:苧環(おだまき)-麻糸を巻いたお(苧)だ巻き}

 このように歌い舞う静に激怒した頼朝を北条正子がとりなし事なきを得ます。しかし、頼朝は、生まれる子が女の子なら育てるが男の子なら殺せと命じます。やがて静は男の子を出産します。磯禅師は泣いて我が子を離さない静から赤子を取り上げ、安達清常に渡しました。そして義経の子は由比ヶ浜の海に沈められ殺されてしまいました。その後、磯禅師と共に京へ返された静の消息は明らかではありません。

 ヒトリシズカは自らと子孫の命を長らえるために誰にも見つからず山の木陰でひっそりと咲いている必要があったのでしょうか。

ヒトリシズカは、1020㎝程の茎の先端に23㎝の細かく白いブラシのような花が咲き、その下の茎に4枚の葉が十字についています。葉は光沢があり、縁は鋸の歯のような形状です。ヒトリシズカと表しますが茎は数本もしくは最大で20本ほどがまとまって株立ちします。白いブラシのような花が咲く前は花を4枚の葉が衣で子供を包むようにくるんでいてその葉が開くと花が現れます。森や林の木陰などの強い日差しの当たらない湿った場所を好み、花がまとまって咲いています。葉も柔らかくキラキラして緑がとても美しく見えます。

花が終わると先端に青い果実が沢山付きます。秋になってこの実が地面に落ち、たくさんの新しい芽が出てきます。センリョウ科チャラン属で原産国は日本です。別名を吉野静、マユハキグサといい吉野に逃亡した静御前にちなんだ名前がついています。実は、花が2本の花穂を持つフタリシズカと言うよく似た花があります。これもセンリョウ科チャラン属です。いずれも宿根草で何年もの間、毎年同じように咲いてくれます。そして、ある年に突然あちこちに新しい株が立ち上がって増えてくるのです。

「シュンラン」   2021年3月   作:山野草敬爺 

 シュンランは我が国の山野に古くから自生していたランで、春に可憐な花を咲かせることから「シュンラン(春蘭)」と呼ばれ親しまれてきました。森の里が開発される前の里山にはあちこちに株がみられ、今でも七沢森林公園や若宮公園の自然林の中で見ることができます。

 子どもの頃、近所の大人が「ジジババ」と呼んでいたこともあり、その由来をインターットで調べたら、Wikipediaによると「一説には、ジジババというのは蕊柱を男性器に、唇弁を女性器になぞらえ、一つの花に両方が備わっていることからついたものとも言われる。」 と書かれていました。

 花をよく見ると、ラン特有の美しさがあり、人を引きつける魅力があります。シュンランは、園芸店などでも売られていますが、一番美しく見られるのはやはり山野に自生している姿だと思われます。

 春蘭の花言葉は、「気品」、「清純」、「控えめな美」、「飾らない心」とされています。野生の花の多くは写真からうかがえますように、花の色が緑色と白からなるために地味であまり目立ちません。そのために「控えめ」「飾らない」という素朴な印象を与えることになりました。ただ、日陰の藪の中でも薄黄緑色に凛としたたずまいで咲き誇る姿は、「気品」のある春の妖精のように感じられます。春蘭はシンビジウムの仲間で、花の色も黄色、トキ色(朱金)、薄紫など様々の園芸品種があり、東洋ランとして好事家の中で人気のある花なのです。また、花は食用になるため山菜としててんぷらや酢の物、塩漬けにして「蘭茶」と楽しまれたと言われています。学名は、シンビジウム・グーリンギーで、「グーリンギー」というのはオランダ人の植物採集家ゲーリングの名から付けられました。

「梅の花」     2021年2月   作:道端古石

 

いつの世も梅の花は、長く侘しかった冬の寒さを耐え、やっと見つけた希望の星のように、見る人の心に優しく寄り添う花というべきでしょうか。毛糸の帽子を被り、マフラーを首に巻き、厚手のコートに手袋姿で、とぼとぼと公民館に向かう道すがら、ふと気が付くと、ちらほらと梅の花が咲いています。近寄ってみるとほとんどの木々の枝々には今にもはじけそうな蕾が膨らんでいます。人はこの瞬間を待ち受けていたかのように目を輝かせ何か懐かしい暖かな気持ちに誘われるのです。

あるじをば たれともわかず 春はただ 垣根の梅を たづねてぞ見る 」(藤原敦家朝臣:家の主が誰であるのかわかりませんが、春はただ垣根の梅を探したづねてみるのです。)春が梅を訪ねてやって来ました。そうです、希望に満ちた春が来たのです、と梅の花はあなたに教えてくれるのです。

「折られけり くれない匂ふ 梅の花 今朝しろたえに 雪は降れれど 」(宇治前関白太政大臣:折る事ができたよ、紅の色が美しく咲いている梅の花を。今朝は真っ白に雪が降っているけれど。)たとえ冬が戻って来たかのように森の里に雪が降ったとしても、梅の花が咲き、その香りを漂わせているならばその希望が途切れることはないのです。それは、まるで冬の到来ように新型コロナウイルス感染症で外出自粛要請が出ていたとしても、梅の花が咲き誇れば、私たちの未来は希望に満ち溢れているのと同じことです。

「春されば まづ咲く やどの梅の花 ひとり見つつや 春日暮らさむ」(山上憶良:春になると庭に最初に咲く梅の花を、たった一人で見ながら長い春の日を過ごすことなどどうしてできましょうか。)と、山上憶良が詠んだように誰もが、梅の花が咲くこの季節に、自粛生活が長引くことは望んでいません。みんなで集まり楽しく過ごすことを望んでいるのです。

「梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我れ思ふ 酒に浮かべこそ」(大伴旅人:梅の花が夢の中で語ることには「私は自分でもみやびな花だと思います。どうぞお酒に浮かべてくださいな」)梅の花が自分でこんなことを言っているよ、早いとこ、リモートを止めて、みんなと一緒に盃に酒を満たし、梅の花びらを浮かべて語らいながら飲み明かしたいなあ。

「梅の花 あかぬ色香も むかしにて おなじかたみの 春の夜の月」(皇太后宮大夫俊成女:梅の花はその飽きることのない色香も昔のままであり、同じような形見として春の夜の月が浮かんでいます。)

今夜はこんな月は出ていないけれど、とにかく自粛中だから家の梅で我慢しよう。梅の花は昔の彼女のように香しくも美し・・・。

福寿草」     2021年1月   作:黄花薫風

 この花はキンポウゲ科の典型的なスプリング・エフェメラルつまり「春のはかなきもの」「春の妖精」と呼ばれる春告げ花の代表格です。ご存知のように森の里のあちこちの庭に植えられています。それは江戸時代の昔から庶民の間で、元日草、あるいは朔日草(ツイタチソウ)と呼ばれ、新春を祝う縁起の良い花と喜ばれ、珍重され、園芸品種として品種改良されてきた経緯があるからなのです。また、1月1日の誕生花でもあり、花言葉は「幸せを招く」「永久の幸福」とされています。

確かに、まだ緑の少ない冬枯れの庭に、ひときわ大きく黄色い花を咲かせる福寿草は正しく春の訪れを感じさせてくれます。霜柱の間から、太くて丸いつぼみが顔を出し、そして、春の日差しの中で一気に大きな花を咲かせます。しかも、太陽の光に反応し、日光が当たると開き、日が陰ると閉じる感光性なのです。

しかし、多くの人は福寿草がその後どうなるのか知らない場合が多いのではないでしょうか。実は、次々と葉が出、繁り、花を咲かせ、背丈が大きく伸びて30~40㎝まで延び広がります。6月ころ、気温が上がると地上部が一気に枯れて、いつの間にか消えてしまうのです。そして、来春まで土の中で密かに眠っています。また、福寿草が黄色というのは日本でのことで、海外の品種では赤みを帯びた花が多く、緑色の花もあります。日本でも紅撫子と呼ばれる品種は赤橙色をした美しい花を咲かせます。

 葉は、ヨモギやセリのような形をしていますが食べない方が良いでしょう。特に根には強心配糖体のシマニン、アドニンなどの毒物が含まれており、食べたりすると、嘔吐、呼吸困難、心臓麻痺などの症状を呈し、重症の場合死亡するほどです。恐ろしい毒性を持っている有毒植物でもあります。実はこの花の学名はアドニス・レモーサと言い、ギリシャ神話でイノシシに化けた軍神アレースに殺された美少年アドニスに由来します。このことから、日本と異なり西洋では「悲しい思い出」という花言葉が与えられました。アドニンはアドニスから、「悲しい思い出」は、アドニスの流れた血に染まった花の色に由来し、実際に見てみると、ギリシャの福寿草は血の色をしているのでした。

我が家では、福寿草をツゲの下草として植えてありますが2年毎に、1つずつ、つぼみの数を増やして、毎年、忘れずに咲いてくれる律儀で美しい植物なのです。

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